自動車整備工場の開業や新築を検討していると、「認証工場」と「指定工場(民間車検場)」という言葉を目にする機会が多いはずです。どちらも地方運輸局長から認められた整備工場ですが、できる業務の範囲や、建物・設備・人員に求められる要件には大きな違いがあります。そしてその違いは、工場の広さやレイアウト、建設費用にも直結します。
この記事では、認証工場と指定工場の違いを比較表で整理したうえで、それぞれの建物・設備・人員の要件と、将来の指定工場化を見据えた建物計画のポイントを解説します。
1. 認証工場とは
認証工場とは、道路運送車両法に基づき、地方運輸局長から「自動車特定整備事業」の認証を受けた整備工場のことです。エンジンやブレーキ、ステアリングなど、自動車の安全に関わる装置を取り外して行う整備や改造(特定整備)は、この認証を受けていなければ事業として行うことができません。
2020年4月の制度改正により、従来の「分解整備」は「特定整備」へと名称が変わり、自動ブレーキなどの先進安全装置に用いられるカメラ・レーダーの調整(エーミング)などを含む「電子制御装置整備」が新たに対象に加わりました。これから整備工場を建てる場合は、電子制御装置整備に対応できる作業場を確保するかどうかも検討ポイントになります。
認証工場でも車検整備は行えますが、車検の際には整備した車両を国の検査場(運輸支局など)へ持ち込み、検査を受ける必要があります。
2. 指定工場とは
指定工場とは、認証工場のうち、さらに設備・技術・管理組織について一定の基準を満たし、地方運輸局長から「指定自動車整備事業」の指定を受けた工場のことです。一般に「民間車検場」とも呼ばれます。
指定工場では、工場内の完成検査場で自動車検査員が検査を行い、保安基準に適合していることを証明する「保安基準適合証」を交付できます。これにより、継続検査(車検)などの際に国の検査場へ車両を持ち込む必要がなくなります。顧客にとっては車検にかかる時間が短くなり、工場にとっては車検の受注力や作業効率を高められるのが大きなメリットです。
なお、指定工場は認証工場であることが前提です。いきなり指定工場として開業するのではなく、まず認証を受けたうえで、要件を満たして指定を申請する流れになります。
3. 認証工場と指定工場の違いを比較
主な違いを表にまとめると、次のとおりです。
| 項目 | 認証工場 | 指定工場(民間車検場) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 自動車特定整備事業の認証を受けた工場 | 認証工場のうち、指定自動車整備事業の指定を受けた工場 |
| 特定整備 | 行える | 行える |
| 車検時の検査 | 国の検査場へ車両を持ち込んで検査を受ける | 工場内で検査し、保安基準適合証を交付できる |
| 作業場 | 対象車種に応じた屋内作業場・車両置場が必要 | 認証の作業場に加え、完成検査場が必要 |
| 設備 | 特定整備に必要な作業機械・工具 | 上記に加え、検査用の機械器具(検査ライン)が必要 |
| 人員 | 整備主任者の選任、従業員2人以上など | 自動車検査員の選任、工員4人以上(大型車を扱う場合は5人以上)など |
指定工場は、建物の面でも人員の面でも、認証工場より一段高い要件が求められることがわかります。
4. 認証工場の建物・設備要件
屋内作業場
認証工場には、作業の種類に応じた屋内作業場が必要です。主なものは次のとおりです。
- 車両整備作業場:車両を入れて特定整備を行うスペース
- 点検作業場:点検を行うスペース(車両整備作業場と兼用できる場合があります)
- 部品整備作業場:取り外した部品を整備するスペース
- 車両置場:整備前後の車両を置いておくスペース
それぞれの作業場には、対象とする自動車の種類(普通自動車・小型自動車・軽自動車など)ごとに、間口・奥行の最低寸法が定められています。たとえば普通自動車(乗用)や小型四輪を対象とする場合、部品整備作業場は8㎡以上とされているなど、具体的な数値基準があります。また、屋内作業場の床は平滑に舗装されている必要があります。
対象車種を広げると求められる寸法も大きくなるため、「どの車種を扱うか」は建物の広さを決める重要な前提条件です。
電子制御装置整備を行う場合
電子制御装置整備の認証を受ける場合は、エーミング作業を行うための作業場が必要になります。カメラやレーダーの調整にはターゲットを設置するスペースが必要で、床が水平であることや、周囲に十分な空間があることが求められます。将来対応する可能性がある場合は、建物の計画段階でスペースを確保しておくと安心です。
作業機械・工具
特定整備を行う装置ごとに、必要な作業機械や工具が定められています。ジャッキ、プレス、コンプレッサー、各種テスターなどが代表的で、対象とする装置や車種によって必要な機器が異なります。
5. 認証工場の人員要件
認証工場の主な人員要件は次のとおりです。
- 事業場ごとに整備主任者を選任し、届け出ること(1級または2級の自動車整備士であること)
- 特定整備に従事する従業員が2人以上いること
- 従業員のうち1人以上が1級または2級の自動車整備士であること
- 1級・2級・3級の自動車整備士の数が、従業員数の4分の1以上であること(端数は切り上げ)
たとえば従業員が2〜4人なら整備士1人以上、5〜8人なら2人以上が必要という計算になります。
6. 指定工場で追加される要件
指定工場では、認証工場の要件に加えて、主に次のような基準を満たす必要があります。
完成検査場と検査用機械器具
指定工場には、整備を終えた車両を検査するための完成検査場が必要です。完成検査場には、サイドスリップテスター、ブレーキテスター、スピードメーターテスター、ヘッドライトテスター、排気ガステスターといった検査機器を配置するのが一般的で、これらを一列に並べた「検査ライン」を設ける形が多く見られます。
完成検査場の寸法基準も、対象とする自動車の種類によって異なります。検査ラインは車両が直進しながら順に検査を受けるため、建物の奥行や、検査ライン前後の車両動線を十分に確保する必要があります。
自動車検査員
指定工場では、保安基準適合証の交付にあたって検査を行う「自動車検査員」を選任する必要があります。自動車検査員になるには、整備主任者として1年以上の実務経験があり、地方運輸局長が行う教習を修了していることなどが求められます。
工員数
指定工場の工員数は4人以上(大型車を扱う場合は5人以上)とされ、そのうち3分の1以上が自動車整備士の資格を持っている必要があります。ここでいう大型車とは、車両総重量8トン以上、最大積載量5トン以上、または乗車定員30人以上の車両を指します。
人員要件は、整備士不足が続くなかで指定工場化のハードルになりやすいポイントです。建物の計画とあわせて、採用・育成の計画も立てておくことが重要です。
7. 将来の指定工場化を見据えた建物計画のポイント
開業時は認証工場としてスタートし、事業が軌道に乗ったら指定工場を目指すというケースは少なくありません。その場合、最初の建物計画で次の点を考慮しておくと、将来の増改築の負担を大きく減らせます。
- 検査ラインを設置できる奥行・間口を、当初から建物内または増築予定地に確保しておく
- 検査ラインの前後に、車両が直進して出入りできる動線を確保しておく
- ピットを設ける場合は、検査機器の配置との関係を設計段階で検討しておく
- 検査機器の追加を見越して、電気容量や配線ルートに余裕を持たせておく
- 増築で対応する場合は、建ぺい率・容積率に余裕があるか確認しておく
既存の工場を増築して指定工場化する際の注意点は、「自動車整備工場の増築・拡張を検討するときの注意点」の記事で詳しく解説しています。
8. 認証工場と指定工場、どちらを目指すべきか
どちらを目指すかは、事業の方向性によって変わります。
- 一般整備や鈑金、タイヤ交換などが中心で、車検の取り扱いが多くない場合は、まず認証工場として小さく始める選択肢が現実的です
- 車検の入庫台数を増やしたい、来店型の車検サービスで集客したいという場合は、指定工場化によるメリットが大きくなります
- 人員の確保に見通しが立たない場合は、建物だけ先に指定工場仕様にしても要件を満たせないため、採用計画とセットで判断することが大切です
いずれの場合も、将来の選択肢を狭めない建物計画にしておくことが、長く使える整備工場づくりにつながります。
まとめ
認証工場と指定工場の違いについて、ポイントを整理します。
- 認証工場は自動車特定整備事業の認証を受けた工場で、特定整備を事業として行うために必要
- 指定工場は認証工場のうち、さらに指定を受けた工場で、工場内で検査を行い保安基準適合証を交付できる
- 認証工場には、対象車種に応じた寸法の屋内作業場・車両置場と、整備主任者・整備士などの人員が必要
- 指定工場には、これに加えて完成検査場・検査機器、自動車検査員の選任、工員4人以上などの要件がある
- 将来指定工場を目指す場合は、検査ラインのスペースや動線、電気容量を当初の建物計画で確保しておくとよい
認証・指定の要件は、対象とする車種や装置によって細かく定められています。建物の設計を始める前に、管轄の運輸支局で最新の基準を確認するとともに、認証要件に詳しい施工会社と相談しながら計画を進めることをおすすめします。
※本記事は一般的な制度の概要を解説したものです。認証・指定の具体的な基準や手続きは、対象車種や地域によって異なる場合があります。必ず管轄の運輸支局で最新の情報をご確認ください。