旧車を扱う工場には特別な配慮が必要
旧車やクラシックカーを専門に整備する工場は、一般的な車を扱う工場と比べて求められる条件が大きく異なります。部品は繊細で劣化が進んでいることが多く、交換部品も容易には入手できません。整備に時間がかかるのは当然で、数週間から数か月、場合によっては一年を超えるような長期のレストア案件も珍しくありません。
つまり、工場には「効率よく作業を進める力」だけでなく、「長期間にわたり大切な車を守り続ける力」が必要になります。
湿気と温度を制御する環境づくり
旧車にとって最も大きな敵は湿気です。鉄はすぐに錆び、配線は腐食し、ゴムは硬化してひび割れます。特に分解途中の車両は防水性を失っているため、外気の湿度を直に受けやすく、放置すれば一気に劣化が進みます。
そのため、整備工場の設計段階から断熱や換気を十分に検討し、室内の温度や湿度を安定させる仕組みを整えておく必要があります。除湿機やエアコンを常時稼働できる電源系統を確保し、空気が滞らないように配置を工夫することで、環境リスクを最小限に抑えられます。
長期間バラしたまま保管するためのスペース
旧車の整備では、車体を分解し、そのまま数か月保管しながら少しずつ作業を進めることがよくあります。こうした場合、通常の作業ベイを長期間占有してしまうと、他の整備に支障をきたします。
あらかじめ「長期保管用ベイ」を設けておくと効率的です。分解した部品は車両ごとにまとめて管理できる棚やワゴンを近くに配置し、ホコリや湿気を避けるためにビニールカーテンで仕切りを設けると、清潔で安全に保管できます。さらに、各ベイに進捗を書き込めるホワイトボードなどを設置しておけば、長期にわたる作業でも記録が曖昧にならず、誰がどこまで作業したか一目で確認できます。
保管専用エリアと導線の分離
旧車やクラシックカーを安心して預かるためには、作業エリアとは別に「保管専用エリア」を用意することも大切です。塗装待ちの車やレストア前の状態の車、あるいは希少な部品などを置いておくためには、温湿度管理を徹底した空間が必要になります。
お客さんが不用意に近づけないよう、一般の来客導線とは切り離すことが安全の面でも望ましいでしょう。導線の設計は、お客さんが安心して過ごせる空間と、スタッフが効率的に作業できる空間を両立させる鍵となります。
オーナーと信頼を深める商談スペース
旧車のオーナーは車に対する思い入れが強く、整備やレストアの相談も自然と長時間に及びます。そのため、静かで落ち着いた商談スペースがあると安心して話をしてもらえます。
施工写真や過去の事例を見せながら説明できるように整え、家具や照明には少しクラシックな雰囲気を持たせれば、空間そのものが信頼関係を築く舞台になります。
工場を「訪れたくなる空間」に変える
旧車ファンは車両そのものだけでなく、当時の文化や雰囲気も大切にしています。だからこそ、工場全体のデザインや演出も重要です。外壁をレンガ調にしたり、木製の看板を掲げたりするだけでも雰囲気は大きく変わります。レストアが完了した車や整備工具を展示できるギャラリースペースを設ければ、訪れる人にとって工場は単なる整備の場を超え、「文化を体感できる空間」になります。照明やレイアウトを工夫すれば写真映えも良くなり、SNSでの発信が自然に広がりやすくなるのも魅力です。
技術と空間をそろえて信頼される工場へ
旧車やクラシックカーを専門に扱う整備工場は、他の工場以上に「信頼」を求められます。技術力があることは当然として、その技術を安心して預けてもらうための空間設計が欠かせません。湿気や温度を安定させ、長期保管にも耐えられる設備を備えること。作業と保管を分け、導線を整理して安全を守ること。商談や待合の場を整えて、オーナーと丁寧に向き合える環境をつくること。そして、工場そのものをブランドとして演出し、訪れるだけで魅力を感じられる空間にすること。
これらを踏まえて設計された工場は、単なる作業場ではなく「旧車を安心して任せられる場所」として、お客さんの記憶に残り、長く愛され続けるはずです。